― ナスダックは「二重の見えないリスク」に晒されている

はじめに:今の米国市場はバブルなのか

今回は、
「現在の米国株式市場は果たしてバブルなのか」
という問いについて考えてみたい。

現在の米国市場は、良くも悪くも一部の巨大テック企業によって支えられている市場だ。
とりわけ「マグニフィセント7」と呼ばれる企業群――
Microsoft、Apple、NVIDIA、Alphabet、Amazon、Meta、Tesla――の存在感は圧倒的である。

実際、ナスダック市場全体の時価総額のうち、
約40〜50%前後をこの7社だけで占めていると言われている。
指数として見れば分散しているようで、実態はかなりの集中構造だ。

一方で、私は「AIは幻想だ」と言いたいわけではない。
むしろ逆で、仕事でもプライベートでも様々なAIツールを日常的に使っており、その凄さと進化スピードを身をもって感じている一人だ。作業効率は劇的に向上し、できることの幅は年単位ではなく月単位で広がっている

AIが社会や企業活動に与えるインパクトは、本物だと実感している。

では、そのAI技術に支えられた現在の米国市場は、
このまま何の障害もなく順調に成長を続けていくのか。

これに対して、私は
「そうはならない可能性が高い」
と考えている。

理由は、AI需要そのものではない。
AIを支える「物理条件」と「金融条件」に、無視できない歪みが生じ始めているからだ。


1. AIブームの裏側で起きている「電力問題」

AI需要の爆発により、米国ではデータセンター建設が急増している。
特に生成AI向けのデータセンターは、従来とは桁違いの電力を消費する。

  • 従来型データセンター:10〜30MW
  • AI特化型データセンター:100〜500MW
  • 一部キャンパス:1GW(原発1基相当)

問題は、建設スピードと電力インフラ整備のスピードが一致していないことだ。

  • データセンター建設:1〜2年
  • 送電網・変電所増設:5〜10年
  • 新規発電所:10年以上

その結果、すでに米国では
「建物は完成しても、十分な電力が来ない」
という事態が現実味を帯びている。


2. 電力規制は、企業業績にどう影響するか

電力制約は、需要を壊すのではない。
成長のスピードを物理的に制限する。

短期:利益率への圧迫

  • 高額な長期電力契約(PPA)
  • 自家発電・蓄電設備への投資
  • 非効率な立地でのデータセンター建設

これらはすべて CAPEXの増加につながり、

  • フリーキャッシュフローの低下
  • 株主還元余力の縮小

を招く。

※CAPEX(キャペックス)とは、
企業が将来にわたって使う資産に投資する支出のことで、一言で言うと「会社の成長や維持のために行う“設備投資のお金”」だ。

中期:成長率そのものの低下

電力がなければ、

  • AI学習能力は増やせない
  • クラウド提供量も増やせない

需要があっても供給できない状態は、
市場が最も嫌う「構造的制約」である。


3. なぜナスダックは特に影響を受けやすいのか

ナスダックは、他の指数と比べて以下の特徴を持つ。

① AI・クラウド依存度が極端に高い

上位銘柄は、
Microsoft、NVIDIA、Amazon、Alphabet、Metaなど、
電力=成長条件の企業ばかりだ。

② 株価が「未来の供給能力」で評価されている

ナスダック銘柄の評価は、今の利益
ではなく、将来どこまで計算能力を拡張できるかに強く依存している。

無限の成長可能性があるAIの成長が実は、電力供給量の増加量に依存しているとなれば、この前提を直接揺さぶる。

③ 影響は「暴落」より「上値の重さ」

電力問題は即座に市場を崩壊させるリスクではない。
むしろ、

  • 高値圏での長期レンジ
  • 好材料に反応しにくい相場

という形で効いてくる可能性が高い。


4. 円キャリートレードという「金融面の地雷」

もう一つの重要な要素が、円キャリートレードだ。

低金利の円で資金を調達し、
高成長が期待される米国株、特にナスダックに資金が流れ込んできた。

しかし、

  • 日米金利差の縮小
  • 円高の進行

が起きれば、この構造は一気に巻き戻される。

円キャリーの解消は、

  • 短期的
  • 強制的
  • 流動性ショック

という性質を持つ。


5. 「電力制約 × 円キャリー巻き戻し」が最も危険な理由

要因時間軸影響
電力制約中期・構造PERの上限を下げる
円キャリー巻き戻し短期・流動性急落を引き起こす

この二つが同時に起きると、

  • ナスダックが最初に売られる
  • しかし成長前提が揺らいでいるため、押し目買いが弱い

という状況になりやすい。

条件が揃えば、
−20〜30%規模の調整も十分に想定範囲だ。


おわりに

AIの進化は止まらない。
しかし、市場は「技術」だけで動いているわけではない。

電力という物理条件と、
円キャリーという金融条件。

この二つが同時に揺らいだとき、
ナスダックは最も影響を受けやすい指数になる。

これは悲観論ではない。
相場の前提が一段変わりつつあるという話だ。

AI相場の次の局面は、
「技術」ではなく
エネルギーと金融構造が決めるのかもしれない。

投稿者 棚主バルド

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